二章

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 翌日も普段通りの朝が始まった。  翼は八畳の自室で目を冷ました。白いベットから、まだ夢の中にいる自分を引き戻すようにもがいて、何とか起き上がると枕元の窓のカーテンを開けた。目が眩む様な日差しが広がり、服や雑貨が散らかった部屋が姿を表した。  翼は床に敷き詰められた服の隙間を、適当に服を掴みながら器用に歩くと、着ている服を部屋の隅の篭に放り込んで着替えをした。篭の中は乱雑に積まれた服で一杯になっていて、翼は欠伸をしながら赤いフードの上着を羽織り、その篭を右手で掴んで、その隣に何個も積まれたバケツを二つ左手で掴むと、のんびりとした足取りで部屋を出た。  噴水に近付くと、翼は普段と様子が違うことに気付いた。いつもは噴水の周りに群がる人々が、噴水から少し離れた一角に集まっていたのだ。  しかし翼は、格別それには注意を向けず、むしろ噴水が空いている事を幸いと、その群れの横を素通りして、噴水で洗濯を始めた。 篭に水を浸し、その中で濡れそぼった服を擦り合わせ、水を数回入れ替えながら翼が洗濯を続けていると、その後方で益々人を増やす群れから、  「だから、あなたたちの言ってる意味が分かんないって言ってるの!」 と叫ぶ少女の声が聞こえてきた。  翼は、その声に少し興味を持ったのか、篭から水を出し、バケツ二つを滝の下に置くと、ズボンで手を拭きながらその群れへと近付いた。小柄な翼は、外からでは中心が見れないので、仕方なしに人々の隙間を縫って、輪状に集まる人々の最前列に立った。  群れの中心には、十五、六位の年齢に思われる、黒い長髪の少女が、色白の顔を困惑で一杯にしながら、どうなってるのと叫び続けていた。  翼はその様子を見ながら、中々可愛い顔をしているなといった様な事を考えていた。実際に少女は、小さな白い顔に、綺麗な部品を丁寧に乗せられた様な、美人と言って差し支えない顔立ちだった。  翼はそんな少女にみとれながら、久々に赤ん坊じゃない新入りかと考えていた。中途半端に成長した新人は、説明を理解するまでに時間がかかるから面倒だな、とも思った。
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