二章

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 「つまり君は、その首からぶら下がってる懐中時計が十二時を指すまで、ここにいなきゃいけないんだよ」  群れの中からそう宥める様な声がすると、しかし少女は落ち着かないまま、  「だから、その意味が分かんないのよ!何なの、この時計は」 と、叫びながら、首から下がった白銀の懐中時計を何とか取ろうと躍起になった。  だが、その場にいる誰もが分かっていた様に、まるで引っ掛かっている様に少女の首から時計が外れる事はなく、少女も、それまで幾度か試したのだろう、直ぐに苛立たし気に時計を離すと、  「何なのよ、これは」 と、項垂れた。  その間に周囲に群がる人々は、新しい入居者が現れる度にしている様に、誰がその少女の面倒を見るかという話し合いを、誰からともなく始めていた。幼児であれば、育てる面倒はあるものの、この町を理解させるという最大の手間がかからない為にあっという間に引き取り手が決まるものだが、少女の様にある程度成長をしている場合は、中々決まらないものが普通であった。今回も当然そういう流れになり、皆が何か理由を付けては断っていた。  そんな中でも翼は、中心で遂には座り込み、泣き始めた少女にずっとみとれ続けていた。目を凝らして見ると、少女の懐中時計は八時少し過ぎを指していて、それは少しずつであるが間違いなく不規則な時の刻みを続けていた。案外この子がいなくなるのは早いな、と翼は少しだけ残念に思った。  「そう言えば、翼の所って誰も預かってないよな」  不意にそんな声が、何処かから上がった。翼はそれに思わず、えっと反応し、周りの人々も一気に翼に視線を注いだ。  「お、俺はちょっと」  「んじゃ翼に決定でいいじゃん」  翼が言い掛けた言葉も聞かないまま、誰かのその声と共に解散となった。人々が手に持ったバケツや篭のぶつかる音が辺りに散らばったかと思うと、噴水の外れには踞っている少女と翼だけが取り残された。  翼は参ったという風に頭を掻きながら噴水の方を見て、自分が置いておいたバケツや洗濯篭が人の波に埋もれて見えなくなってしまったのを見て、更に頭を掻きむしった。  「ねえ」  翼は不意に掛けられた言葉に驚いて後ろを見ると、直ぐ後ろで目の下を赤く腫らした少女が、翼を挑む様に見つめて立っていた。  「教えて。私に何が起きてるのかを」
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