二章

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 翼は至近距離の少女の顔を見て、やっぱり綺麗な顔をしてるな等と場違いな事を考えながら、しかしこの子を引き取るのはと困ってしまった。  「えーと」翼は再び頭を掻きながら、少女と噴水の方を見比べながら、「とりあえず、荷物取ってくるから、待ってて」  翼は水一杯のバケツと洗濯篭を持ちながら、煉瓦の町並みを南に歩いていた。  「ねえ、その陣さんって人の家はまだなの?」  少女は半分だけ水の入ったバケツを片手にぶらつかせ、翼の後ろを付いて歩きながら尋ねた。翼と少女の足が煉瓦を叩く音が、狭い通りの壁に反響しながら幾重かに重なって響いた。その中に先程から、本来の時の進みから微妙に狂った少女の時計の針の音も混じって聞こえ、翼にはそれが不愉快だった。  「ねえ、別にその陣って人じゃなくても、あなたが説明してくれればいいじゃない」  少女のその問い掛けに、翼は黙ったまま歩いた。不愉快な時計の音が、翼の少女に対する僅かな好意を消していた。翼はその不機嫌さを示す様に、ただ黙ってその足を速めた。  少女は、そんな翼に慌ててついていきながら、翼の不機嫌に気付いたのか結局黙ってしまった。  しばらく二人の足音と、時計の音、加えて少女の持つバケツの水が揺れる音が響き続けていた。その内に、赤茶色のアパートが途切れると、少し離れた場所のくたびれた小屋の前に着いた。  「ここ?」  立ち止まった翼を見て少女は尋ねたが、翼はやはり無言のまま、その小屋の、意外としっかりとした扉を開けた。  翼が中に入ると、陣は相変わらず向かいの椅子に腰掛けていて、翼を見るなり軽く片手を挙げながら、  「よお、今日はいつもより遅かったな。それになんだ、美人なお嬢さんを連れて」 と、翼の後から入ってきた少女を見て言った。翼は扉の横に洗濯篭を置いて、相変わらず簡素なキッチンに向かった。  「彼女は新人。陣さん、ここの古株だから、この町の説明をして貰おうと思って」翼はまだ不機嫌な口調でそう言うと、キッチンに持っていたバケツを置いて、「これ、今日の分」  陣はそうかと頷くと、少女を手招きして呼び寄せ、翼に紅茶を入れてくれと頼んだ。少女は多少戸惑いながら、陣に呼ばれるままに近付き、普段は翼が腰掛ける椅子に飛び乗った。  翼はそんな様子を背中に感じながら、ヤカンに火をかけて、少女の時計の音を聞いていた。
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