Another 1

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 町の外縁の森には、普段は誰も近付かなかった。住民たちはその森を神聖なものとしていたし、近付けない理由もあったからだ。  しかし、その日は違った。いつもの様に晴れ渡る空の下、町の真北の森の外には沢山の人々が集まり、様々な表情を浮かべていた。泣いて別れを惜しむ者、笑顔で手を振る者、羨望の眼差しで見つめる者とその思いは各々だったが、その視線は一人の少女に向けられていた。  人々の群れよりも少しだけ森に近い所に立っているその少女は、奥に深い暗闇を讃える森に背を向けて、思い入れのある人々に、町の中心の噴水の水よりも輝かしい笑顔で別れの言葉を告げていた。  そんな中、人々の群れを掻き分けて、一人の少年がその少女の前に立った。  少年は最初、泣きそうに歪めた顔を少女に向けていたが、やがて下を俯き、大きく息を吸うと、覚悟を決めた様な、全てを投げ出した様な、とにかく迫力のある視線を少女に向けた。  「出口まで送るよ。それなら平気だろ」  少年がはっきりとそう言うのを聞いた少女は、一瞬驚いた顔をしたが、少し迷った挙げ句、再び笑顔になって頷いて、  「ありがとう」  少年はもう、その言葉だけで泣けそうだった。しかし少年は、喉までせり上がった様々な思いを一飲みにすると、少女に向けてそっと左手を差し出した。  少女はその手を見て、小さく笑い声を立てた後、了承を示す頷きを見せて、右手を少年の左手に乗せた。  「それじゃ、行くか」  「うん」  二人はそう言葉を交わし合うと、少女はもう一度集まっていた人々に大きく手を振って、少年と手を繋ぎながら森林の中に歩いていった。
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