序章・TOKUAN

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2000年5月、大阪、JR徳庵駅―昼。 自転車を走らせて、僕は10年ぶりにこの駅にやってきた。 僕は今日、大阪を離れ、故郷へと帰る。その前に、もう一度この場所に来たかったのだ。たくさんの思い出が眠る、この場所に。 昔ローソンがあった場所に、今は違うコンビニが建っている。たったそれだけで、悲しくも時間の流れを感じた。 ふと、通りの向こう側から声がした。 小学生くらいの男の子達数人が、歩いている。 懐かしさがこみあげて、僕はその後ろ姿を、いつまでも見送っていた。 古びた商店街も、踏み切りも、街を流れる空気も、何一つ変わっていない。けれど、僕はもうあの頃の僕じゃない。純粋さなんて、とっくの昔にどこかに置いてきた。変わらない街並みに、言い様のない寂しさを覚えた。
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