「お父さん…」①

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ある処に一人の男の子が居た。 彼は来年には小学生になると言うのに、一言も言葉をしゃべった事が無かった。それだけでは無い。 産まれた時の産声すらあげていなかった。 両親は勿論、同居している父方の祖父、祖母も彼の事を心配し、可能な限りの検査、診察を受けた。 しかし、どこに行っても出る結論は「異常無し。原因は分かりません。」だった。 ある夕食時。 全員が食卓に着いている時、彼は祖母に向かい、ポツリと「お婆ちゃん…」と呟いた。 家族全員の喜びが尋常な物で無かったのは想像に難くない。 しかし、その喜びも、翌日の朝には凍りついた。 祖母は布団の中で冷たくなっていたのだ。 死因は心臓発作… 『孫が初めて喋ったんだから、喜びすぎたんだろう…』 葬儀の場にも、そういう空気が流れていた。 彼は再び口をつぐんだ。 1ヶ月ほどして生活が落ち着きを取り戻しかけた頃、彼はやはり夕食の席で祖父に向かい、「お爺ちゃん…」と呟いた。 やはり今回も家族は少なからず喜んだ。 しかし、同時に嫌な予感もしていた…
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