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ある処に一人の男の子が居た。
彼は来年には小学生になると言うのに、一言も言葉をしゃべった事が無かった。それだけでは無い。
産まれた時の産声すらあげていなかった。
両親は勿論、同居している父方の祖父、祖母も彼の事を心配し、可能な限りの検査、診察を受けた。
しかし、どこに行っても出る結論は「異常無し。原因は分かりません。」だった。
ある夕食時。
全員が食卓に着いている時、彼は祖母に向かい、ポツリと「お婆ちゃん…」と呟いた。
家族全員の喜びが尋常な物で無かったのは想像に難くない。
しかし、その喜びも、翌日の朝には凍りついた。
祖母は布団の中で冷たくなっていたのだ。
死因は心臓発作…
『孫が初めて喋ったんだから、喜びすぎたんだろう…』
葬儀の場にも、そういう空気が流れていた。
彼は再び口をつぐんだ。
1ヶ月ほどして生活が落ち着きを取り戻しかけた頃、彼はやはり夕食の席で祖父に向かい、「お爺ちゃん…」と呟いた。
やはり今回も家族は少なからず喜んだ。
しかし、同時に嫌な予感もしていた…
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