「道の脇から…」①

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それは、蒸し暑い夏の……丁度、黄昏時とでも言うんでしょうか… 私は、建物もまばらな、とある田舎道を、10年来の付き合いのポンコツ軽自動車で走っていました。 日は暮れかけていたし、街灯も無いけど、まだ何とかライトは点けずに走れる…そんな時間でした。 急に、道の脇から、一匹の真っ黒い子猫が走り出てきたんです。 タイヤがスリップ音を立てて、車は止まりましたが…タイミング的には、完全にブレーキは間に合いません。 車を降りて確かめようかとも思いましたが、それ以上に、内臓の飛び出した子猫を見る恐怖感に駆られ、そのまま車を発進させてしまったんです… 『なぁに、大丈夫。轢いた衝撃も無かったし、鳴き声も聞こえなかった…』 自分にそう言い聞かせながら走り続け、ふとルームミラーを見ると… 信じられませんでした… グッタリした子猫をくわえた親猫が、私の車を追って来ていたのです。 いくらポンコツの軽自動車とは言え、時速40キロ以上は出てるはずなのに、親猫は着いてきます。 自然にアクセルを踏む足に力が入り、スピードは50キロ、60キロと徐々に上がって行きますが… 親猫を振り切る事はできませんでした。 私は後悔しました。 あの時、車から降りて弔いの言葉の一つも言っておけば、こんな目に会わずに済んだのだろうか… しかし…後悔先に立たずとはよく言った物ですね… 今、いくら後悔してももう遅いんです。 ………少し走ると、道は昇り坂になってきました。 以前走った時の事を思い出しました。 この先、さらに昇りは急になり、登坂車線ができるほどである事を… 私のポンコツでは、スピードを上げるどころか、目に見えて遅くなるのは火を見るより明らかです。 スピードの減少を感じながら、私の目はルームミラーに映る、グングン近付いてくる、子猫をくわえた親猫から離す事はできませんでした… 『…追い付かれた……』 そう思った瞬間…… クロネコヤマトの営業車が、追い越し車線を凄い勢いで私の車を追い抜いて行きました…………
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