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玄関には相当はき潰された聞いたこともないメーカーの靴がざっくばらんに置いてある。
その靴をはこうと靴箱に手をかけ、足を伸ばす。
しかしはき潰された靴の中の中敷きは剥がれ、靴の奥に押し込まれているため足が入らなかった。
『チッ…』
不意に出た舌打ちをし、仕方なしに僕は腰を下ろし、手を靴の中に入れ中敷きを正した。
長年はかれた靴の中は、少しずつ積み重ねられた汚れでぬめっているかようで、とても不快だった。
靴なんて安いの買えばそんなにかからないから買えばよかったなぁ、靴をはく度に毎回思っていた気がする。
お洒落や身だしなみにはほとほと興味がない僕からしたらそんな悩みは一時のことで、身につけるもののことなどすぐに忘れてしまうためにいつも靴を買い忘れるのだ。
まだはけるし、はくとき以外は何の不便もないから尚更だ。
靴に両足入れると解けている靴ひもを慣れた手つきで結ぶ。
しかしそんな僕だが、結び方はいつも『縦結び』になってしまう。
そんな縦結びを見ると、毎回少々時代に母親から『演技が悪いからちゃんと結びなさい』と言われたのを思い出す。
しかし今の僕には『縦結び』がお似合いな気がして少し笑えてきた。
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