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六月。
まさに梅雨の季節真っ只中である。
日々、散々と降りしきる雨。
そんな雨の中、外出するのも億劫になり、ついつい家の中で過ごすことが多くなってしまう季節だ。
まったく憂欝意外の何者でもないが、僕はそんな梅雨が好きだった。
雨は何もかも洗い流してくれる。
雨音はすべての生命の息吹すらかき消してくれる。
自分という唯一無比の存在すら否定してくれてるようで、僕を恍惚とさせてくれるのだ。
もし、もし僕が人生を終えるならそんな季節に死ぬのが本望だと思っていた。
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その日の朝目覚めると、外はまるで梅雨の季節というのが嘘であるかのように、澄んだ青空が広がっていた。
『眩しい。』
外を覗く僕の口からふとこぼれた。
いつぶりだったろうか、こうやって晴れの空を見上げるのは。
鳥達は久方ぶりの快晴に意気揚揚と飛びかい、人は待ってましたと言わんばかりに、梅雨の中休みの貴重な晴れの日にみんな活動を始めている。
『…こんな日に限って晴れかよ。』
舌打ち混じりに口から出た言葉は、どこか覚悟と諦めを秘めているように思えた。
それは僕が二十四歳と七ヵ月の時だった。
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