0人が本棚に入れています
本棚に追加
『工業団地って、〇〇の工業団地のことですか?』
彼はミラー越しに僕に尋ねてきた。
僕は不意打ちをくらった。
彼の顔に気をとられすぎていた。
『あっ、そうです。』
思わず無愛想に返答してしまった。
沈黙が車内を包んだ。
運転席からは無線から声が聞こえている。
『今日は暑いですねぇ。昨日までの雨が嘘みたいに晴れちゃって。』
また不意打ちをくらった。
いきなりしゃべるのはびっくりするから止めてもらいたい。
そんな僕をお構いなしに彼は続けた。
『いやぁね、先日までは雨だったでしょ?だからお客さんも少なかったんですよぉ。』
『はぁ。』
『で、今日は見事に晴れたもんだから、お客さんが増えるなぁって意気込んでたんですよぉ。』
『………。』
男は話ながら無愛想な顔をくしゃっと崩しながら笑った。
『めっきりでしたよ。貴方が今日初めてのお客さんですからねぇ。』
『……そうだったんですかぁ。』
『えぇ!』
彼はにこにこ笑っているのがミラーから分かった。
今日初めての客を乗せれて上機嫌のようだった。
最初のコメントを投稿しよう!