運転手

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『工業団地って、〇〇の工業団地のことですか?』 彼はミラー越しに僕に尋ねてきた。 僕は不意打ちをくらった。 彼の顔に気をとられすぎていた。 『あっ、そうです。』 思わず無愛想に返答してしまった。 沈黙が車内を包んだ。 運転席からは無線から声が聞こえている。 『今日は暑いですねぇ。昨日までの雨が嘘みたいに晴れちゃって。』 また不意打ちをくらった。 いきなりしゃべるのはびっくりするから止めてもらいたい。 そんな僕をお構いなしに彼は続けた。 『いやぁね、先日までは雨だったでしょ?だからお客さんも少なかったんですよぉ。』 『はぁ。』 『で、今日は見事に晴れたもんだから、お客さんが増えるなぁって意気込んでたんですよぉ。』 『………。』 男は話ながら無愛想な顔をくしゃっと崩しながら笑った。 『めっきりでしたよ。貴方が今日初めてのお客さんですからねぇ。』 『……そうだったんですかぁ。』 『えぇ!』 彼はにこにこ笑っているのがミラーから分かった。 今日初めての客を乗せれて上機嫌のようだった。
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