†prologue†

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 老人達は、自らが育てたとも言える英雄の存在に酔いしれている。その中で、一人それを良く思わない男が一人。年齢にしてまだ二十代後半。それでも、眼光から放たれる威圧感には誰もが息を呑む。 「何か気になる点でもあるかね? プレジデント」 「ええ。このままあの英雄を野放しにしておいて良いのか、と考えておりました」  【プレジデント】。そう呼ばれた若い男は、眉をキリリと上げ、臆することなくそう進言した。プレジデントの進言を理解できない老人達は揃いも揃って、『何故だ』と叫ぶ。それに対しても、プレジデントは涼やかな顔で言い放つ。 「彼は忠実な番犬だ。これは誰もが認めていることでしょう。だが、北欧神話の終焉を告ぐラグナロク。その終焉を担う最強の化物フェンリル。  果たして―――彼が我々に呼び込むのは幸福だけでしょうか?」 「何が言いたい?」 「彼は麻薬です。それも酷く強烈な、子供にウォッカをストレートで一気飲みさせるような即死物のね。  確かに、誰もが彼の魅力に取り憑かれる。だが、その甘美なる魅力が私は恐い。彼は、何れ我々に恐怖を齎す存在になり得るでしょう。  故に―――私は彼の処断を進言します」
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