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「予想はしてたけど、おめでとう、二人共」
席に戻ると、二人は伯爵の暖かい賛辞を受けた。
「ありがと♪さ、約束」
「ええ。こっちに来なさい」
伯爵は基哉を手招きした。
「ちょっとチクッとするわよ」
「へ?」
完全に不意を突かれた。一本の髪の毛が基哉の盆の窪を、突き刺した。
ちょっと、どころではない。鋭い痛みが基哉を襲い、彼は気を失った。
彼が次に起きたのは、やはり白いベッドの上だった。
基哉は体を起こして、頭の中を整理した。
―――そうだ。俺はたしかワクチンを打ってもらえて…。じゃあここは伯爵の城か?
しかし、それが間違いだということは、基哉にはすぐわかった。
日の光が差しこめている。
伯爵の城には窓が無いはずだ。
―――じゃあ、ここは?
「起きましたね」
人が一人入ってきた。真っ白な白衣をきている。女性のようだ。顔は逆光でよく見えなかった
「…あなたは?」
「失礼。私は真田南。あなたの担当医よ」
「担当…医?医者なんですか?」
「ええ。どう?意識は大丈夫?」
「意識は…まあ大丈夫ですけど、俺はなんで病院に?」
「あらあら、そんなことも思い出せないの?」
フフッ、と女性は笑った
「やっぱり鈍いなぁ、ぼく」
「ぼく?まさか!」
「そう、私よ、私」
それは、成長してはいたが、あきらかに鷹島美伽であった
「な!なんで君…え?大人?」
「あ、そっか。知らないんだ。あなた、10年も眠り続けてたのよ」
美伽が言うには、基哉はあれから森の麓まで運ばれて、そこで捜索隊に発見され、病院に収容された。そして今に至るまで、ずっと眠り続けていたらしい
「じゃあ今、俺は…」
「27歳かな。鏡見る?」
美伽が差し出した鏡を恐る恐る覗き込み、基哉は叫んだ
「そんな!」
基哉の顔は、化け物と同じ顔になっていたのだ
「何を驚いてるの?」
「だって、ワクチンは打ったはずなのに」
「うん、打ったね。確かにあの時の発病は抑えられてた。でもね、今から五年前、あの薬がテロ組織に奪われてばらまかれたの」
「アライブ…」
「そうそれ。でね、この町を中心とした、半径50キロくらいの地域の人は、全員そうなっちゃったわけ。入院していたあなたも、もちろん例外じゃないわ」
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