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―――なんてことだ…
信じてきた世界の反転。10年も眠っていたなら仕方ないかもしれないが…それでもショックは大きかった。
町が、あの四季神園のようになっているのを想像すると、やるせなかった
―――でも待てよ
基哉は、ふと疑問に思う
「どうして俺は、意識を保っていられる?」
「やっと気付いた。前言ったよね?アライブはまだ試作段階だって。でもね、アライブは、あなたが入院してだいたい三年くらいしてから、完成したの」
「完成?」
「意識を持った、生物兵器。そのコンセプトを満たす薬を、旧政府は開発したの」
「じゃあ、まさか今は…」
「戦争中よ。第三次世界大戦が、四年前始まったの」
「第三次…」
「あなたみたいな生物兵器がどんどん造られていったわ。日本政府は事実上滅亡。旧政府が今戦争の指揮をとっているの」
「そんな…そんなことって…」
「現実にそうなんだから、仕方ないじゃん。じゃ、もう行くけど…」
「待って!」
帰ろうとする美伽を、基哉は呼び止める
「俺は…どうなるの?」
「そうだね、もう少したって体が強くなったら、まず洗脳をうけて、お国のために死を恐れずに戦う兵士にされるわ。それから敵地に運ばれて、あとは戦いだけ。国のためよ。戦いなさい」
「…嫌だ。どうにか…どうにかならないの?国のために死ぬなんてやだよ…」
「…わかったわ。目を閉じて」
基哉は目を閉じる。暗闇が広がった
「ねえ、何を…?」
シュッ
一陣の風
ベッドに座っていた男の首は、もうなかった
「またダメだったんっすか?」
研究室に戻った美伽を、モニターを熱心に見ていた男が迎える
「悪いわね、無能で」
「言ってないすよ、そんなこと。それより次は306の奴すよ?」
「はいはい」
美伽は日本刀の血を拭うと、306に向かった。そこでも、四季神園での体験を本当にしたと思っている奴がいる。
鞘に入れた日本刀を背中に隠すと、美伽はその扉をノックした
人間の脳は、ある種の電子機器だ。微弱な電流で情報が流れている。
旧政府はその事を踏まえて、記憶を改竄する装置を作り出したのだ。
美伽はその記憶に出てくる登場人物の、10年後の姿として、患者が国のために死ねるか否かを判定するために雇われた、職員だった
また同じ顔が美伽を見つめる。
「あなたは…?」
その問いに答えるのが、美伽には少々うんざりだった
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