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異変
蓮華は、スクスクと育っていた。家族三人の生活は、生きていくだけで、ギリギリの状況だった。
『粉ミルクって高いんだな。』と妻に聞いた。
『本当、子供がいない時は、粉ミルクの値段なんて関心なかったけど、いざ必需品となると、びっくりなくらいよ。無くなるのも早いし。』と妻は嘆く。
『製造会社は、暴利だな!多分、利益率高いぞ、これは。』と私はぼやいた。
蓮華は、私たちの会話が分かるかのように、眉を寄せて、神妙な顔つきをしていた。
それを見て、私たちは笑った。
毎朝、玄関で妻と蓮華にキスをして、仕事場に行く。
この日もいつものようにキスをして、蓮華の笑顔に後ろ髪を引かれながら、玄関のドアを閉め、仕事場に向った。
仕事場である展示場までは、車で約40分かかる。
快調に車を飛ばし、後信号二つ先を右に曲がると仕事場に着くところまで来た。その時、胸に激痛が走った。
痛みを堪えながら、何とか車を路肩に寄せて、ハザードをたいて、停車させた。
胸に手を当て、大きく深呼吸を繰り返した。数分して、ようやく、痛みが治まり、車を動かしたが、全身には、尋常では無いくらいの汗をかいていた。
痛みからのせいもあるが、自分に大きな闇が襲いかかって来るような不安も重ね合わさったもののように感じた。
私の両親は、二人とも心筋梗塞で死んでいた。
私は、この胸の痛みが、それとは違うことを願った。
事務所に入り、先輩に挨拶すると、
『お前、大丈夫か?顔が真っ青!白いぞ!』と先輩は、私の顔を見て、驚いた様子で言った。
『ちょっと胸が痛くなって…。でも大丈夫です。』とまだ、驚いた顔が戻らない、先輩に言った。
私は、先輩の発した言葉を頭の中で、リフレインしていた。
《青…白…冷たい…息》
『病院行けよ!どうせ客は、来ねぇし、来ても俺一人でも大丈夫だから。』
『でも…。』
『お前だけの体じゃないだろう。かわいい蓮華ちゃんが…。』と先輩が真顔で、優しい言葉をかけてくれた。
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