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朝早くに父は逝った。まだ36歳であった。テレビでは、この冬一番の寒さだと伝えていた。私が11歳、弟が9歳。そんな私たちを母は、懸命に働き、育ててくれた。母の大変さも知らずに弟は、玩具をねだっていた。弟をなだめるのが私の仕事だった。泣いている弟の頬を擦りながら、
『お母さんを困らせたら駄目だぞ。ウチは、貧乏なんだから、我慢しなくちゃ。』母には聞こえないように、かすれた小さな声で言う。
『だって俺だけなんだもん、ファミコン持ってないの。』口を尖らせて、弟は、私の目を見る。
確かに、私のクラスでもファミコンを持っていないのは、極少数だった。極少数派の中でも、経済的理由なのは、ウチだけ…。あとは、教育上の理由により、買わないのであった。
『友だちの家でやらせてもらってるから、良いじゃん。買いたいんだったら、お小遣いとお年玉貯めて買いな。』
『え~。何年かかるんだよ。一生買えないよ。』弟は、一生出来ないとか一生食べないとか、悲観的な言葉の頭に必ず『一生』をつけた。
そんな生活環境ではあったが、親子三人仲良く生きていた。三年間は…。
私が、中学二年の冬に母が逝った。部活の朝練があったので、いつもより、早く起きた。寒くて、吐く息が白い。気合いを入れて、二階の自分の部屋から、一階の洗面所にダッシュした。顔を洗い、髪の寝グセを鏡で見ていた。その時、いつもと違う感じがした。何だろと考えながら、寝グセを直していた。あっ!味噌汁の匂いがしない。違和感は、これだ。朝練で今日は、早く出ることを忘れてると思い、一階和室の母の部屋にいった。
『お母さん、今日朝練だから、早いって言ったじゃん。時間無いから、おにぎり握って。』
しかし、返答は…無い。布団を揺らしても、反応が無い。恐る恐る布団をめくると、母の顔に血の気は無く、青…いやっ…白くなっていた。起きた時の息のように。
母も父と同じく36歳でこの世を去った。
両親を失った、私たち兄弟は、父の兄夫婦に引き取られた。兄夫婦には、子供がいなく、私たち兄弟をとても優しく、本当の子供のように育ててくれた。優しさに包まれながら、爽やかな春風のように時は過ぎていった。
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