いつか見た夢 actⅠ

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晩秋の晴れた日曜。洗い晒しのデニムとTシャツにフライト・ヂャケットを羽織って、クルマの鍵を掴んだ。 リビングから「ぢゃあ坊やをお願いね」と声が掛かる。「ああ」と答えガレーヂに向かった。 ワインレッドのアルファロメオのコクピットに乗り込む。キーを捻りパネルが点灯する。燃料ポンプの作動音を確認しスタートボタンを捺すと、長いクランキングから3.0 V6 SOHCのミラノの歌姫が不機嫌そうに目覚める。 その音を聞いて小さなステップで、坊やが駆けよる。 oilがエンヂンに行き渡るまでの7分間。俺は坊やに色んな事を聞く「幼稚園はどうだい?とか、好きな子は?」たわいのない話。 バケットシートに坊やを座らせ4点式ベルトを締める。俺も座りベルトを締めながら計器類をチェックする。 妻は坊やがクルマに乗り込むと俺のマネをすると言う。それが妙に嬉しかったりする。MTを2速に入れてから1速に入れる。シンクロが無い訳では無いが、旧いアルファロメオの発進の儀式をつい行ってしまう。クラッチを繋いでアクセルを踏み込むとシングルカムの甲高いエキゾーストを発する。 走らせると坊やは楽しそうに話だす。 目的地の牧場に着き草原を走り回わり、坊やが振り向いた。 「・・・」 懐かしい気持ちに囚われる。 その顔は幼い時の俺の顔だった。 思い出した。よく叔父さんに遊んで貰った事を。少し不良の叔父さんのS30Zに乗せてもらい、色んな所に連れて行って貰った事。 俺の楽しかった事を自分の子供にしてあげてた。 涙か流れて、そこで目が醒めた。この夢が叶うのはいつだろう。 このパズルを完成させる大事なピースが未だに見つからない。
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