山内 秋人

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昼休み。 俺は一人、学園の中庭のベンチに座り弁当をつつく。 べつに友達がいないわけじゃない、 友人たちとの飯は楽しいし、ベンチで一人過ごすよりも断然社交的だろう。 だが俺は好きなのだ。 校舎によって切り取られた学園の中庭は天気の良い日など、昇天したお日様の陽光が射して実に心地いい。この居心地をひとり占めにするこの時間、ああ贅沢だ。 しかしこの時期、春、暖かい季節。中庭の芝生には、いろんな学年のカップルが芝生でいちゃつきながら「あーん」とか「おいちい」とか恥も外聞もなく己の世界に耽溺している光景がよく見られる。そうなると俺的には「ひとりは好き。だがちょっと待て……」と多少メンタルを傷つけることもある。 俺の特等席の小さいベンチは広い中庭の端っこに申し訳なさそうに存在していた。 この学園に入学して早々、中庭にて腐りかけていた木製ベンチを見つけた俺が美しくリフォームしてやったんだ。 元々だれにも顧みられてなかったうえに、カラーリングを真っピンクの俺色に染め上げたので、今となっても座る奴は殆どいないという話だ。曰く座ると脳内が桃色ウイルスに冒されるとか。 「ニャー」 弁当を平らげ、日光浴としゃれこんでいた俺の足元からねこが顔を出してきた。 「ようでぶ、今日はもう飯食っちまった」 「フニャ~……」 悲しそうな声を上げて抗議するように俺の膝に飛び乗って来たねこ。ずしりという重みを太ももに感じる。 ――でぶ。と、いうのは俺が付けた名前だ、理由はそのまんまで傍目から見ても太っていたから。 一年生の時、今と同じようにのほほんと寛いでいたら、突然俺の頭にダイブしてきた動けるデブだった。 その日以来俺がこの場所で飯食ってるとほぼほぼ現われる。 でぶなので相当気分が良くない限り飯をやる事は無い。 ――チュンチュン、チュンチュン 校内スピーカーから流れる鳥の囀りは予鈴だ。 「くそっ、忌々しい鳥だ。人がせっかく気持ち良くなってる時に。今日こそ焼き鳥にしてやろうか?」 機械的鳥声に俺は悪態をつき、膝の上からでぶを退かす。 「予鈴だ。教室帰るわ。おいでぶ今度あの鳥見つけたらその太った前足の爪で八つ裂きにしてやってくれ」 俺はでぶの前足を掴みながら、予鈴を伝える音声鳥の殺害を頼み教室に向かった。 ── 「あの人だ……」 「え? なにみより? 何か言った?」 「ううん、なにもいってないよ」 昼休み、中庭の端っこにある派手なベンチに座ってる男の子……。 名前は山内 秋人君っていうらしい。 らしいっていうのは、今まで喋ったことがないんだ。 どんな人か聞いてみると、大抵の人が変な人って答える。 太ったねこと一緒にご飯食べてるのを良く見掛けるけど、友達いないのかな? 「みより? 予鈴なってるよ! 早く教室戻ろう」 「うん」 鳥の鳴き声が聞こえて来る。予鈴だ。 広げたお弁当を戻しながら彼をみたら、太ったねこの前足を持ち上げながら怖い顔して喋りかけている。 不思議な人──
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