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――ヒュンッ!
鋭い風切り音が俺の頭上を通り抜ける。
「チッ! やるじゃないか! 今のをかわすとは思わなかったぜ」
「ふんっ、そんなヘナチョコな攻撃で、この秋人様の身体に傷をつけれると思ってるのか? これでも食らえ!」
俺は敵の胸目掛け刺突を放つ。
「まだまだ!」
水近がその刺突を自分のエモノでなぎ払う。そしてその勢いのままに俺の肩に向かって刃を振り下ろして来た。
「痛っ~!……………………クソッ! 負けちまった~」
水近が振り下ろした刃は見事に俺の肩に的中した。
「へへ~秋人。これで俺の十勝目だ! もう俺を止めれるのは宮本武蔵くらいだぜ」
「ほざけ! まだ俺の方が一回多く勝ってる」
掃除の時間。
俺と水近は中庭担当だ。
が、俺たちがまともに清掃に励むはずも無く、今みたいに長箒を槍とし、お互いに死闘を繰り広げるのが常だ。
因みに、十勝目とか一回多く勝ってるとか言ってるが、ホントの事は良く分からない。
お互い雰囲気を重視しそれらしいことを言っているだけだからな。
戦闘を終えた水近が俺の特等席に近付き、腰を下ろした。
「それにしてもこのベンチ、ンでこんな気色悪い色してんだ?」
人の特等席に座っといて、なんて言い草だ。
「気色悪いだと? ピンク色のどこが気色悪いんだ?」
「いや、どこがっつーか、全部っつーか。落ち着かないだろこれ」
「そうか? とはいえピンクといえば恋に愛だろ? なんかそういうの青春っぽくてよくない」
「恋に愛にエロだな」
「おまえね、そんな万年脳内桃色なこと言ってると男が下がるんだぞ」
「つーかさ、お前が恋愛とか言っても説得力ないんだよね。なあ、恋愛否定野郎くん」
「ちょっと待て。俺がいつ恋愛否定したね?」
「なんだ? 違うのか? 俺が見た限り面は良いのに、人と交わろうとしない。恋愛に関しては心から拒否してる感さえある」
事の真偽はさておき。ホントよく見てるやつだと感心する。こういうところが周りから人が絶えない秘訣なのかね? とはいえこの話題を続けるのは正直キツイ。なので、
「違うね。俺は常に心の門戸を開いているぞ。ただ単に俺の溢れにあふれる高貴さに女の方がたじろぎ、あ、無理。ってなるだけ。あーどっかにいねえのかファムファタール」
「四組の涼本さんとか」
「いや、それはちょっと」
この学園の人間ならだれもが知っている女子生徒。学園のプリンセス。アイドルでもないのにファンクラブまであるとかないとか。
たとえにしても高嶺の花過ぎてちょっと引くぞ。
「てめえの溢れる高貴さはどこ行った」
と、水近。それもまあ、時と場合だ。
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