両親

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アタシは一度も父親を好きだと思った事はない。 アタシ達は、とにかく彼を恐れていた。 彼が娘のアタシ達を愛している事なんて、大人になってからわかったくらい‥ 子供の頃はただ怖かった。 彼は、背中全面、右胸から腕にかけて入れ墨がある。背中には観音如来、右胸には龍の顔‥後のデザインなんてもう思い出せない‥。 彼が競馬を観ている時は、とにかく静かにしなければいけない。 うるさくすると殴られるから。 ご近所の人達とあまり仲良くしてはいけない。 カーテンは常に閉めていなければいけない。 どこで誰が見ているかわからないから‥と彼は言っていた。 いつの頃かは はっきしないが、4歳か5歳頃、アタシ達姉妹は父親と3人で暮らしていた時期があった。母親はあの頃、父親に嫌気がさして里帰りしていたらしい。 あの頃の思い出は‥ 殴られていた事だけ。。 毎日父親に怯えて過ごしていた。隣のおばちゃんは優しかった記憶があるけど、仲良くしているとわかるとまた殴られた。 彼は時々、彼が『やくざ』と呼ばれていた頃の事を口にする。 「昔からの仲間の中で、俺だけが足をあらって普通の仕事して家族もいるから 誰か足ひっぱろうとしてくるかもしれない。世の中悪い奴の方が多いんだ。」 正直、頭おかしいって思ってた‥たぶんあの頃は父親自身その世界から抜けて、まだたいした年数が経ってなかったのかもしれない。 母親が帰って来てくれてからも、相変わらず父親を恐れながらの毎日だった。
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