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祖父の告別式で、父親の弱い部分をみた事で少し彼が近くに感じていた‥
‥が、そんなのはだいぶ甘い考えだったようで、
アタシ達の父親は、相変わらずの暴君ぶりを発揮。
機嫌が悪い時には余計な事は言わず、ただ家族団欒を楽しむフリをしなければいけない。
毎日とにかく殴られ、蹴られた。
次の日、顔が別人のようになった事もしばしば。
夫婦喧嘩も時々みてきた。父は、すぐ怒鳴る、殴る、蹴る、引きずる。
今思い出しても憎らしく思える程だ。
こんな男だが、酒癖に問題があるわけでもなく、夜遊び、女遊びをするわけでもない。
何だかんだ言っても、母とアタシ達の事が大好きだったみたいだ。そして転職を何度かしたが、基本、ちゃんと働いてくれていた。
転職の理由は、彼の悪い癖‥就職する度に、忘年会の夜、血だらけで帰宅‥悪酔いする中年は嫌いらしく、つい喧嘩してしまう。余りお酒を飲まない父は、いつも早めに帰って来るので、殴った相手の血を、洋服やら手やらにつけて帰って来る父をアタシ達は見る事になる。
最終的に良い会社に巡り会えたらしく、その後転職はなくなった。
バブルの影響もあって、アタシ達は、よく殴られていた以外は何不自由ない生活をさせてもらっていた。
そしてこの男、絵と字はやたら上手かった。
風景画や龍や虎などの絵を趣味で描いていたが、悔しい程上手い。
字もよく注意されていて、毎年暮れに年賀状を書く時期が地獄だった。
朝から正座で、小学生なのに筆ペン。ハガキと字とのバランス‥細かく指導。何度か注意されても出来なければ、また拳が飛んでくる‥アタシが字が下手だったんじゃない‥父が見てる事のプレッシャーと恐怖で上手く書けなかっただけだ。
そんな父親にもおちゃめなところはあって、
毎朝偽物の小指を、テーブルやら洗面台やらに立てて置く‥
アタシ達は起きぬけ1番にドッキリだ。
彼には片方小指がない。さすがにそのまま仕事をするわけにはいないので、偽物の小指(残った方の小指から作ったもの)をはめ、絆創膏でくっつけ仕事に行く。
その小指をふと目がいく場所立てて置くと、実は素でビビる。
我が家だけのブームだった。
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