100人が本棚に入れています
本棚に追加
🐤🐤🐤🐤🐤
「ハイ。加藤でございます」
良枝はのんびりといつもの口調で電話に出た。
今日もどうせ睦月は帰りが遅いのだろうとその電話にも気に留めず、愛奈はテレビを見ていた。
雅樹は自分の部屋で大学で出された課題のレポートに取り組んでいる。
「え……」
愛奈が良枝の様子がおかしいと気が付いたのは良枝が電話の受話器を取り落としたまま動けなくなってしまったからだ。
その時でさえ、愛奈はテレビを見たまま動かなかった。
「いやぁ! 嘘よぉ」
良枝の悲鳴に尋常でないものを感じた愛奈が良枝の元に駆け寄る。
二階にいた雅樹も良枝の悲鳴に反応して階段を駆け降りてきた。
「ママ?」
愛奈が倒れた良枝の体を起こすと「パパが……」とだけ、うめくように口にするとすすり泣いた。
「母さん、落ち着いて」
愛奈に代わって雅樹が良枝の体を支えた。
焦点の合わない良枝の目が雅樹の姿を捉えると混乱したようにしがみついた。
「雅巳……お願い、加藤君を連れて行かないで……」
良枝の言葉に雅樹が俯いた。
「母さん、俺、雅樹だよ。落ち着いて何があったか言って」
「雅樹君……?」
「うん……」
「あ……ごめんね」
はっとしたように息を呑み、良枝が雅樹から離れた。
最初のコメントを投稿しよう!