100人が本棚に入れています
本棚に追加
「パパが……会社で倒れて救急車で運ばれたらしいの。脳溢血で危険な状態にあるって……」
「病院はどこ?」
雅樹の言葉に良枝が小さく「ごめんなさい」と呟いた。
「混乱してしまって……」
病院名を聞いていないと言う良枝に代わって雅樹が電話を拾い上げた。
受話器を拾い上げ、耳に当てるが受話器の向こうではツーツーという発信音が聞こえるだけだ。
「病院は俺が調べるから出かける準備をして」
愛奈に向けられた言葉に頷いたものの、体が思うように動かない。
愛奈は今の自分が良枝と大して変わらない状況にある事を感じていた。
混乱してどうにかなってしまいそうだ。
🐤🐤🐤🐤🐤
病院の暗い廊下の簡易なベンチで愛奈と良枝、雅樹の三人は並んで座っていた。
黙って待つだけの時間は長く感じられる。
チクタクと刻まれる時計の音を体中で感じながら愛奈は激しい後悔の念に苛まれていた。
睦月が死んでしまったらどうしよう。
どうしてあんなに冷たい態度をとってしまったのだろう?
思い出されるのは今朝、睦月に対してとってしまった自分の態度。
あの時、睦月はどんな顔をしていたのだろう?
愛奈は自分が睦月の顔をずっとちゃんと見ていなかったことに強い衝撃を受けた。
最初のコメントを投稿しよう!