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いつも通りの朝のせわしない時間、愛奈の父、加藤睦月はいつも通りリビングで新聞を読みながら妻の良枝が入れた甘いコーヒーの入ったカップに口をつけていた。 「パパ、ママ、おはよう!」 大きな音をたてて睦月の向かい合った椅子に座った愛奈の前に良枝が朝食のスクランブルエッグとトーストを運んできた。 「愛奈ちゃん、もうちょっと静かに座りなさいね」  のんびりとした良枝のたしなめる言葉に適当な返事を返して、睦月にこっそり舌を出して見せる。 いつも通り元気な小学四年生の娘の挨拶に睦月は顔をほころばせた。 「おはよう、愛奈」 愛奈は父、睦月が大好きだった。 精悍な顔とがっしりした体つきをした睦月は、クラスメートの父兄の中でも誰よりも格好良かったし、そして優しかった。 父と一緒に過ごす、この朝のゆったりした時間が好きだ。 一瞬でこの時間は消えてしまう事がわかっていても父が愛奈だけを見つめて微笑んでくれる、この時間は何にも変えがたいものだと思っていた。 静かにダイニングの扉が開き、端正な顔をした青年が愛奈の座っている椅子の隣に腰を下ろした。 「おはよう、父さん、母さん」 一瞬で部屋の空気が変わった。 その声の主はいつもと同じように優美な仕草で愛奈の顔を見つめながら微笑んだ。 「おはよう、愛奈」 いつもの朝の光景だというのに、愛奈はいつものように美しい兄に見惚れた。 何という存在感だろう。 愛奈は睦月の目が兄の雅樹に釘付けになっているのを感じて暗い気持ちになった。 兄は誰にとっても別格なのだ。 綺麗で天使のようなという表現がピッタリな容姿の兄は今日も優美な姿からは考えられない男らしい飲みっぷりで良枝が用意した牛乳を一気飲みした。 一瞬の間を置いて睦月が雅樹に挨拶を返した。笑顔は絶やさないが雅樹を見る睦月の視線はどこか熱っぽい。 愛奈は父の兄を見る目だけはどうしても好きになれなかった。 睦月も良枝も雅樹も何かを知っていて隠している。 そんな気がしてならなかった。 知らないのは自分だけ。 そう感じる疎外感に愛奈は顔をしかめた。 「愛奈、どうかした?」 黙ってしまった愛奈を心配して雅樹が首を傾げながら視線を向けた。 「う、ううん。何でもない」 毎日繰り返されている事だというのに、いつまで経っても愛奈は慣れなかった。 「私、もう行くね」
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