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突然立ち上がった愛奈に睦月の戸惑ったような視線を向けているのを感じる。 気まずくなった愛奈は何とか笑顔を顔に貼り付けた。 「今日は理恵といっしょに学校へ行く約束をしているから早く出なくっちゃ」 「そうか。気をつけて行きなさい」  睦月が急に立ち上がって愛奈の頭を撫でた。 「……うん」 睦月の温もりが残っているような気がする。 愛奈は睦月の触れた自分の頭に手を伸ばした。 「いってきます!」 睦月に笑顔を向けてリビングを後にする。 睦月に触れられると胸が高鳴る。 その高鳴りの感情の意味が分からないまま愛奈はミニスカートを翻して自分の部屋のある二階に小走りで駆け出した。 そしてあの日が訪れる……。 それはいつもとは違う朝の出来事だった。 ガランとしたリビングに良枝だけがキッチンで洗い物をしていた。 「ママ、パパとお兄ちゃんは?」 「パパは仕事が早出なんですって。雅樹君は日直で学校に行ったわよ」 「そう」 父の笑顔が見られないことにガッカリしながら普段父の座っている椅子に目を向けた。 その椅子の上に愛奈の目に見慣れない物体が目に入る。 「あれ?」 銀色の小さな物体は小さな鍵だった。 家の鍵とは明らかに違う小振りで簡素な形の鍵に愛奈の思考の中で閃くものがあった。 もしかしたら、と拾い上げた鍵をこっそりと上着のポケットに入れる。 母親に見付けられてしまうんじゃないかとドキドキしながら朝食を片付けた愛奈は睦月が仕事部屋として使っている部屋に忍び込んだ。 愛奈は睦月がいない時を見計らって時々この部屋を訪れる。 睦月の匂いがするこの部屋が愛奈はとても好きだった。 仕事用のパソコンが置いてある大きめなデスクとシンプルな形の木目調の本棚。 これといった特徴のないシンプルな部屋にただ一つだけ愛奈が見る事が出来ない場所があった。 デスクの中でただ一つだけ鍵のかかった引き出し。
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