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その女性を背中から抱きしめるように微笑んでいるのは間違いなく今よりずっと若い頃の良枝だった。
二人は同世代なのか……。
その事実がこの写真の女性と雅樹の関係を示しているような気がする。
雅樹はこの写真の女性の子供なのではないだろうか?
では兄の父親は誰なのだろう?
湧き上がる疑問に答えるかのようにその女性のウエディングドレス姿の写真が愛奈の目に入る。
その幸せの象徴とも言うべき姿の隣にモーニング姿で立っているのは……。
「パパ?」
今より幾分か瑞々しい姿をした睦月は愛奈の見た事のない無邪気な笑顔を向けていた。
これはどういう事なのだ?
この写真の女性の正体は多分、雅樹を生んだ実の母親で、かつて睦月はこの人と結婚していた事があったということだろう。
そして、その女性の事を良枝も知っている……。
何だか大人の汚い事情を見たような気がして愛奈は手にした写真を引き出しに押し込むようにして戻した。
その時に写真の下から白い封筒を見つけた。
愛奈はその封筒を手に取った。
綺麗な字で加藤睦月様、と書かれていた。
これを見たら一生後悔するような気がする。
しかし愛奈は手紙を引き出しに戻す事が出来なかった。緊張した面持ちで封筒を開け、中に入っている手紙を広げた。
それは短いラブレターだった。
『 加藤睦月様
あなたが、私の死から立ち直ってくれて良かったと、心から思っています。
どうか幸せになって下さい。私はあなたに幸せにしてもらいました。
今度はあなたが幸せにならなくっちゃね。
睦月、あなたの事だから心配はしていないけれど、時々でいいから、私の母に私達の子供を会わせてあげてね。
私の死は母のせいではありません。
私が頼んだ事をそのまま母は守ってくれただけです。
だから恨まないでください。
私の願いはそれだけです。
私は私の事で誰かを恨んだり憎んだりされるのが一番、辛いわ。
睦月、あなたを愛している。
この手紙を書きながら、あなたの事を想ってるわ。
私がこんなにも幸せな気持ちになれるのはあなたという存在がいたからよ。
だから、いいのよ。それで十分だから、あなたは幸せになってください。 加藤雅巳』
「かとう……まさみ……」
手紙の名前を呟いてみる。兄の名前に共通する字を見つけて愛奈は確信する。
間違いない。
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