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この手紙の主は愛奈の兄、雅樹を生んだ人なのだ。
私達の子供、と書かれているのは十中八九、雅樹のことだろう。
小学生の愛奈には読めない難しい字がいくつかあった。それでも大体の内容は理解が出来る。
この手紙の主は死んでしまったのだ。そして、睦月にこの手紙を残した……。
愛のあふれる手紙の内容に愛奈はこの手紙を読んだ事を激しく後悔した。
見るんじゃなかった……。知りたくなかった。
慌てて手紙を封筒に戻し、引き出しの中に入れて鍵をかけた。
多分、今でも睦月もこの雅巳という女の人の事を想っている。
それでなかったらこんな手紙や写真をこんな風に大切にとっておくはずがない。
鍵さえかけて誰にも触れられないように隠してあった写真と手紙……。
それは睦月の心の中にも同じように鍵をかけて大切に隠してあった想いに他ならない。
愛奈は手にした鍵をそのままデスクの上に乗せると、そのまま父親の部屋を後にする。
胸を占めるのは混乱と悲しみ。
そして、今まで愛してやまなかった父親に対して初めて抱く嫌悪感。
兄はこの事を知っているのだろうか?
愛奈の脳裏にいつでも冷静で無表情な雅樹の顔が浮かんだ。
兄はこの事を知っても表情を変えたり感情を害することはないかもしれない……。
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