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静かな川面。
緑多き河川敷では老人たちが楽しげにゲートボールに興じている。
雅樹が愛奈を連れてきたのは愛奈の家から歩いて五分ほどの場所にある川原だった。
数年前はよくここに睦月に連れられて雅樹と愛奈で遊んだものだ。
たくさんの大きな石や小ぶりな石が転がっているが、どれも川の水に洗わて石の本来の美しさを際立たせている。
「お兄ちゃん……学校に間に合わなくなるよ……」
小学生の愛奈はまだしも高校生の雅樹が学校をサボるなんて大事になってしまうのではないだろうか?
愛奈の言葉に雅樹がニッコリと笑う。
「一日ぐらい平気だよ」
その顔は写真の女性によく似ているものだったのに、まったく違う人だということを感じさせる。
写真の人はとにかく線が細い、繊細な人だった。
しかし、雅樹は男ということもあり、容姿も内面も芯がしっかりした人である。
雅樹は川原の石を拾い上げながら手で形を確かめている。
「愛奈、これ持って」
渡された石は丸くて握りやすいものだった。
何をするつもりだろうと戸惑いを隠せない愛奈に雅樹はきゅっと口の端だけを吊り上げて笑って見せた。
「見てて」
言うが早いか雅樹が川面に向けて石を投げた。
びゅ、と軽やかな音を立てて雅樹の投げた石が川面の上に波紋を落としながら跳ねている。
一、二、三、四、五、六。
雅樹の投げた石は六回も川面に波紋を広げ、そのまま川底に沈んだ。
跳んでいく飛び石を見送った雅樹は「おっしゃ」などと満足げに拳を握る。
「愛奈も投げてみろよ」
抵抗する気力もなくなった愛奈は雅樹に言われるままに石を投げてみる。
愛奈の投げた石は水面を跳ねる事なく、そのまま川底に沈んでいった。
「俺の勝ち」
ガッツポーズをする雅樹に触発された愛奈は自分で石を探して拾う。
「勝負はまだよ」
負けず嫌いの愛奈に火をつけてしまった雅樹との勝負。
何個の石を投げただろう?
愛奈は肩で息をしながら川原で座り込みながら愛奈を見ていた雅樹の隣に腰を下ろした。
「これで、おあいこ」
六回の飛び石に成功させた愛奈が雅樹に笑顔を向けた。
そんな愛奈に雅樹が静かに呼びかけた。
「愛奈」
雅樹の声音が変わった。
雅樹の真剣な表情に愛奈の表情も強張った。
「俺、愛奈が世界で一番好きだよ」
「お兄ちゃん?」
「だから、愛奈が苦しんでいる姿は見たくない」
何があった?
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