2章【病】

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「残念だが、不治の病だ。 しかも全身にまんべんなくかかっている」 医者の先生の言葉に、僕は目の前がまっくらになった。 「奈美は…奈美は助かるんですか!?」 涙ながらに叫ぶ俺に、先生は悲痛そうに首を振る。 「百パー無理。 もってあと一週間だろう」 この時の僕の絶望は筆舌に尽くしがたいものがあった。 あえて例えるなら、ずっと愛してる人が自動販売機に向かって、サービスが悪いと説教してるのを見てしまったような、そんな絶望だった。 「そんな…そんなのってネェーっすよぉ!」 俺は声の限りに泣き続けた。 「アッー!」 やがて、朝になった。 「やはり…伝えるのかい?」 横で寝ていた先生が、僕に問い掛ける。 「ええ、やっぱり伝えるべきだと思うんです。 彼女の…人生ですから」 僕は、シャツを着ながら先生に言った。 「儂は、止めないよ。 後は君達の問題だ」 先生が優しく微笑む。 「ありがとうございます。 僕…たとえ一週間しか無くても精一杯愛するつもりです!」 そう言って僕はホテルを出た。 「ふっ…あいつ。 儂の若い頃にそっくりじゃけんのぉ」 先生がベッドから半身を起こし、呟く。 秋の寒空が、僕の身に…心に沁みた。
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