3章【別れ】

2/7
前へ
/31ページ
次へ
「…そうなんだ。 あと一週間の命なのね…」 奈美が悲しそうにベッドの上で呟く。 「私…やだよ。 せっかく…せっかく裕平と会えたのに… これから沢山思い出作ろうと思ったのに…」 泣き伏せる奈美を、僕は悲痛な気持ちで見つめていた。 「ごめん…今日は一人にして…」 俯く奈美を残して、僕は病室を後にした。 奈美のために何か出来る事はないだろうか…… 「そうだ!」 僕は、ある事を思い付いた。 (奈美…待ってろよ) まずホームセンターに行き、イルミネーション用のライトを買った。 次に僕は、100円ショップに走り、モールやパーティグッズ等を買い漁る。 今日は10月20日。 ハロウィン用品で溢れかえる100円ショップの売り場に、段々とある商品が飾られてくる頃合いだ。 そう、僕がやろうとしている事は…… 「奈美、奈美!」 夜も更けた頃、僕は窓を叩いて奈美を呼ぶ。 「裕平?どうしたの、こんな時間に…それにその格好…」 僕は所々破れたシャツに、薄汚れたジーンズという格好だった。 「ついてきて欲しい。見せたいものがあるんだ」 僕の言葉に奈美は少し考えた後、こくりとうなずいた。 最終のバスに乗って、薄暗い道を歩き、開けた丘を上る。 そこには一本の大きな木があった。 「ここって…」 「そう、僕と奈美が初めて出会って、キスをしたあの場所だよ。 そして…」 僕はにやりと笑って、木に近付く。 「スイッチオーン!!」 僕は叫んで、幹に絡めてあるイルミネーションのスイッチを入れる。 大きな木が輝くイルミネーションを纏い、赤や黄色の紅葉が光を浴びて輝きを放つ、その輝きの中で木一面につけられたクリスマスの人形達が笑顔で僕たちを迎えてくれていた。 そう、それは光り輝く紅葉のクリスマスツリーだった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加