こおり

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がちゃっ アパートのドアを開けると身を切るような冷風が頬に触れた。 慣れた手つきでドアに鍵をかけ、冷え切ったドアノブから手を離す。 玄関に投げ出した靴をそのまま、横には対照的にそろえられたスニーカーが一つ。 最低温度に設定されたエアコンが冬の冷気に輪をかけた、冷たい風を部屋中に送っている。 柱に取り付けた温度計は三度を指している。 玄関とつながっているキッチンから奥の部屋までの道のりには、フローリングの上に三つの洗面器、机の上にコップが一つ、線を抜いたストーブの上にもガラスのボールが一つ。 中身はどれも水だった。 入れ物から水があふれている物もある。 「あーあ、全部とけたちゃった」 一人ごちてキッチンの流しにどれもこれも持っていき、中の水を勢いよく捨てた。 厚く巻いたマフラーも、厚いコートもそのままで。
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