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争乱割拠・六
西国の所々で、幕府と幕府に従わない勢力が、合戦の火蓋を切っている頃、東北でも大事件が起きかけていた。
陸奥国米沢城を拠点に勢力拡大をはかる若き隻眼の勇将伊達政宗は、宮森城に入り前線視察へ出張っていた。
その留守中、新たに降伏してきていた二本松義継が、政宗に伺候を理由に訪ねてきたが、あいにくの留守で、若くして家督を政宗に譲っていた父の輝宗が応対をした。
二本松義継の態度に不審なものを感じとった伊達家重臣小梁川盛宗は、遠藤基信と鬼庭左月に接待を任せて、密かに政宗に急いで帰城するように使者を出し、城内の主だった者に警戒の指示を出した。
その様子を厠から戻りしまに感じとった二本松家臣大槻中務は、同輩鹿子田和泉に耳打ちし、鹿子田は、大槻に対し、目配せをしたら挙行するように付いてきた高橋内膳、米沢源内、遊佐孫九郎らに伝えるように言った。そして、二本松義継にも耳打ちした。
しばらくして、義継は酔った酔ったといって、本日は退出する旨を告げ、輝宗は義継を送って、玄関先まで行った。義継は、酔ったふりをして輝宗に寄りかかり、刹那、懐に忍ばせていた小刀の匕首を輝宗に突きつけ、
「輝宗殿をお預かり申し上げる。手出しすらば、先代殿のお命は頂戴つかまつる。」
といって、周りを部下に固めさせて、二本松城を目指した。
輝宗はもがきながら、
「輝宗、一生の不覚じゃ。実元、政景、何をしておる、躊躇せずに、わしにかまわず、義継らを討ち取れ。義継、恥を知れ、領主たる武士がすることか、義継。」
といって罵倒したが、義継は意に介さず、
「ここまで追い詰めた、汝が倅政宗が悪いのじゃ。名門畠山家の流れをくむ儂を、名字になぞらえて二股と嘲笑し、はたまた領土の半分を割譲して降伏した上に、更に削り滅ぼさんとした魂胆、もはや我慢ならぬ。貴様を人質にとり、政宗に一矢報いてくれる。」
といいながら、阿武隈河畔へと移動した。
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