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有飛の視線の先にあるのは――門の前に大きく《空家》と書かれたプラカードが取り付けられている、空家。
主を失った家は寂れた雰囲気を漂わせ、空家になってから結構な月日が経過した事を物語っている。
「懐かしいな……ここ」
庭に佇む枝葉の伸び切った樹木に――障子(しょうじ)やカーテンによって閉めきられ、中の様子を一切窺う事のできない家を見て、そう呟く有飛。
この空き家にはかつて、一人の老人が住んでいた。
名前は川中梅子(カワナカ ウメコ)、夫に先立たれ一人暮らしをしていた。
しかしその事をいつまでも引きずらない気丈さ――というのは有飛を始めとした、第三者からの判断だが――で近隣住民には親しまれていたのだ。
おまけに元来穏やかで気さくな性格の為、近所の子供達にも好かれていた。
勿論、有飛もその『近所の子供達』の一人である。
やがて有飛の頭に、梅子との思い出――というよりは記憶――が、蘇った。
×××××××
それはいつの事だったろう。
大分前、小学校――二年生。学校帰り、梅子とのやり取り。
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