360人が本棚に入れています
本棚に追加
有飛は軽やかな足取りで、家路についていた。この時も件の悪夢を見ていたが、今程鮮明なものではなく断片的なものであった。
自分の家の隣の隣にある、梅子の家。
庭には色とりどりの花が咲き乱れ、地面に華を添えている。そんな庭先で、梅子は雑草を刈り取っていた。
有飛は足を止め、元気良く梅子に声をかける。
その笑顔の無邪気さは、まさに小さな子供特有のそれといっていいだろう。
「梅ばあちゃん、只今!」
『梅ばあちゃん』。
これは、近所の子供達が梅子につけたあだ名だ。
子供達は誰もが皆そう呼んでいるし、梅子自身嫌がっている様子もなく寧(むし)ろ、それを喜んで受け入れていた。
「ああ、お帰り有ちゃん」
梅子も笑顔で答える。その右手には、草と草の汁がついた草刈り用の小さな鎌。
その直後――有飛の顔から、笑みが消え去った。
鎌が日光を受け、怪しく光ったような錯覚がして。
鎌を持ち上げた梅子が、今にも自分に襲いかかってくるような錯覚がして。
結果――有飛の心に強い、物凄く強い恐怖が芽生える。
最初のコメントを投稿しよう!