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「いない……」
梅子はいなかった。
恐らく、有飛が突然叫んだ事に驚いたのだろう。追って来る様子はない。有飛は深呼吸すると、家の中に入って行く。
それからというもの、有飛は梅子を極端に避けるようになった。
何故か、梅子に対する恐怖心が抜けなかったのだ。
鎌を持っていようが、そうでなかろうが――有飛には同じ事。
友達から梅子の家へ遊びに行こうと誘われても、登下校の時や休日に会っても、梅子に声をかけられても。
有飛は――無視した。
有飛は――拒否した。
梅子を――無視した。
梅子を――拒否した。
当然、有飛の心中には強い罪悪感が沸いた。
だがどんなに罪悪感を抱いても、後悔しても、無意識がそれを許さない。
許してくれないのである。
そしてその後悔は、数年後により深くなってしまう。
独り身だった梅子が――病気で亡くなったのだ。
「え……梅ばあちゃんが?」
突然のお悔やみ。
有飛の口からは、ただその言葉だけが出ていく。
不思議と、涙は出なかった。
何故か、出なかった。
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