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葬式も済み、一段落ついた後有飛は梅子の家へと向かう。
そこに梅子の姿はない。
大人からも子供からも親しまれていた、梅子はもういない。
主を失い、そこは既にただの抜け殻だ。
門の前に取り付けられた、《空家》の二文字が有飛の心に、虚無感を植え付ける。
真夏――それは有飛が梅子を拒否した時と、皮肉にも季節を同じくしていた――の生温い風が、後悔と罪悪感と虚無感と今更になってようやく訪れた悲しみに支配された有飛を、そっと撫でた。
有飛が小学校六年生の時の出来事だった。
×××××××
「……梅ばあちゃん、やっぱり俺が無視した事怒ってるだろうな」
かつて梅子が住んでいた空家を見上げ、有飛は口を開く。あれからもう十年近く経過していた。
しかし、何故梅子にあんなに強い恐怖心を抱いてしまったのか。
ただ鎌を持っていただけだというのに。笑顔だったのに。襲いかかってきた訳でもないというのに。
それが――未だに分からない。
解決する時は、果たして訪れるのか――。空家から、有飛は腕時計へと目を向ける。
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