癒えない傷

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夜空には月が昇っていた。それを儚げな眼差しでじっと見ている、一人の女性がいた。 『この世界』に月が昇っているのは極めて稀だ。 夜空に佇むその月は、後少しで満ちるかそうでないかという中途半端な形をしている。 まるで自分の心のようだ。 そっと目を伏せ彼女は思う。 「私達の心は、月。様々な出来事に左右されて、満ちたり欠けたりする。でも私の月は、死ぬまで満ちる事がない……」 どうして――。彼女は呟く。 再び目を開くと、彼女の世界は滲(にじ)んでいた。 涙によって、目が潤んでいたからである。 未だ傷を負うその心で思い出すは――今から十五年も前の事。 その時から、彼女は立ち直れずにいたのだ。だからこうして今も涙し続けている。 十五年前。 見習い『死神』として『死神界』に生きる彼女の身に、深々しい傷を負わせる大きな事件が――起こった。 その事件は、今も鮮明に記憶に残っている。 つい最近起こったのではないか、そう信じ込んでもおかしくないくらいに。 それは何故か。理由は、二つあったのだ。
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