360人が本棚に入れています
本棚に追加
夜空には月が昇っていた。それを儚げな眼差しでじっと見ている、一人の女性がいた。
『この世界』に月が昇っているのは極めて稀だ。
夜空に佇むその月は、後少しで満ちるかそうでないかという中途半端な形をしている。
まるで自分の心のようだ。
そっと目を伏せ彼女は思う。
「私達の心は、月。様々な出来事に左右されて、満ちたり欠けたりする。でも私の月は、死ぬまで満ちる事がない……」
どうして――。彼女は呟く。
再び目を開くと、彼女の世界は滲(にじ)んでいた。
涙によって、目が潤んでいたからである。
未だ傷を負うその心で思い出すは――今から十五年も前の事。
その時から、彼女は立ち直れずにいたのだ。だからこうして今も涙し続けている。
十五年前。
見習い『死神』として『死神界』に生きる彼女の身に、深々しい傷を負わせる大きな事件が――起こった。
その事件は、今も鮮明に記憶に残っている。
つい最近起こったのではないか、そう信じ込んでもおかしくないくらいに。
それは何故か。理由は、二つあったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!