癒えない傷

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着いた先には一つの小さな部屋がある。部屋の扉だけでなく、その周囲の空気も何となく重苦しい。 ここに――いるというのか。 「ここだ。入るがよい」 扉を開けながら、終夜は言った。重苦しい空気に馴染む、同じく重い扉の開閉音。 三人が室内(なか)に入ると―― 『そこ』には、ただ一つ(と表すのは少々失礼だが)の『もの』しか――なかった。 一つの簡素な寝台(ベッド)。その光景はさながら、司法解剖を終えたばかりの遺体安置所のようだ。 「……慈英……?」 そう。そこに寝かされていたのは――紛れもなく、慈英だった。 震えた声で慈英の名を呼ぶ詠を置いて、終夜と刑と逢の三人は寝台の側へと歩み寄る。 呆然と慈英の遺体を見つめる二人に、終夜は言った。 「あまり乱暴に扱うのではないぞ。表面上普通に見えるが首の骨が折れて――いや、砕かれている。下手にいじると、皮膚(かわ)が千切れて首が取れてしまうからな」 ――『首が取れる』。 終夜のその言葉は、詠の心へあまりに生々しく、残酷なまでに響いていく。
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