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そしてその残酷な現実は、寝台の側に行く事でより明確なものへと変換(かわ)っていった。
白く細い脚と、しなやかな指を持つ手を震わせながら、詠は一歩また一歩と近づいていく。
信じたくない、出来れば――否、これは夢であって欲しい。そう思いつつ。
だが。
「…………ッ」
仄(ほの)かな血の匂い。
土気色の顔。
閉ざされた目。
冷たい身体。
それらが示す――死。
非情なる、現実。事実。
慈英が死人であるという、現実。
慈英が死者であるという、事実。
愛する男性(ひと)は――もういない。もういないのだ。
愛する者、慈英の姿――例えそれが遺体という状態でも――を見ていたいと思う反面慈英の死を認めたくない、現実から目を背けたいという確固たる矛盾が詠を襲う。
刑と逢は何も言わない。
チームメイトが突然殺されたのだ、言葉が出なくて当然だろう。
そんな三人に向かって、終夜が自分が目にした惨劇の有り様を、冷静な口調で語る。
「……見て分かる通り、死因は二つある」
そんな事分かりたくもない。詠は思った。
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