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分かっていた。
分かっている。
死神にこんな感情は不必要だと。
感情――特に恋愛感情を持ってはいけないと。
仕事の邪魔になるから。
でも。それでも――
「……私の持つその感情は、決して無駄ではありません。仕事だってちゃんとこなします」
詠は未だしゃがみ、泣きながらもそう終夜に告げる。
詠の言う『感情』がどんな『種類』のものなのか、終夜は気付いているのだろうか。
それは定かではないが、詠の言葉を受け取った終夜はまたもため息をつき、言った。
「……私はお前が一秒でも早く、その『感情』とやらがお前のセンチメンタルな部分を増長させている事に気付いてくれるのを、願うばかりだ」
そう言うと終夜は踵(きびす)を返し、漆黒のマントを翻(ひるがえ)して部屋を出ていった。
逢はしゃがみ込んでいる詠の肩に手を置き、腫れ物に触れるが如くそっと詠を立たせる。
傷心状態の詠の脚は、危なっかしくふらついていた。そこからも、詠の深い悲しみが窺える。
「ありがとう……逢。でももう大丈夫。ここでちょっと一人にさせて」
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