癒えない傷

10/14
前へ
/250ページ
次へ
「……詠、ホンマに大丈夫なん? 今にも自殺してまいそうな勢いやで」 悲痛の面持ちで言う詠に対し、逢がどこか怪訝を含んだ口調で言葉をかける。刑はそのやり取りに口を挟まなかった。 二人は暫し困惑した様子でその場にいたが、やがて落ち着きを取り戻しつつある詠に安心したのか、一言告げ部屋を出る。 「詠、じゃあ僕らは先に戻ってるよ。対面もしたし、これ以上慈英のあんな姿を見ていたくないってのが本音だからさ」 ――仲間の死とは、精神的にキツ過ぎるものなんだ。 悲しそうに刑が言う。 まさにその通りだ。 悲しみが扉の閉まる音にそのまま表れたかのように、詠は思えた。 二人の足音が遠ざかり、詠と慈英――は既にこの世の者ではないのだが――は二人きりとなる。 憧れていた、望んでいた、熱望していた――シチュエーション。 しかし満足感はない。 達成感はない。 心は――満たされない。 その理由はたった一つ。 相手が――死んでいるから。 寝台の方を再び見んと、詠はゆっくりと振り返った。 そこには、愛する者の姿。
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!

360人が本棚に入れています
本棚に追加