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「……詠、ホンマに大丈夫なん? 今にも自殺してまいそうな勢いやで」
悲痛の面持ちで言う詠に対し、逢がどこか怪訝を含んだ口調で言葉をかける。刑はそのやり取りに口を挟まなかった。
二人は暫し困惑した様子でその場にいたが、やがて落ち着きを取り戻しつつある詠に安心したのか、一言告げ部屋を出る。
「詠、じゃあ僕らは先に戻ってるよ。対面もしたし、これ以上慈英のあんな姿を見ていたくないってのが本音だからさ」
――仲間の死とは、精神的にキツ過ぎるものなんだ。
悲しそうに刑が言う。
まさにその通りだ。
悲しみが扉の閉まる音にそのまま表れたかのように、詠は思えた。
二人の足音が遠ざかり、詠と慈英――は既にこの世の者ではないのだが――は二人きりとなる。
憧れていた、望んでいた、熱望していた――シチュエーション。
しかし満足感はない。
達成感はない。
心は――満たされない。
その理由はたった一つ。
相手が――死んでいるから。
寝台の方を再び見んと、詠はゆっくりと振り返った。
そこには、愛する者の姿。
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