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嗚呼――此所にいるのは誰?
嗚呼――此所で寝かされているのは誰?
此所にいるのは――私の愛する者ではない。
慈英なんかじゃ――ない。
――違ウダロ?何寝言ヲ言ッテイルンダ?現実逃避モ大概ニシロ!
「違う。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う……いいえ、違わない」
心に響く、現実を認める『自分』の声が逃避をする『自分』の心に語りかける。
詠は首を横に振り、声を震わせて否定し続けた。
だが最終的に出たのは、『声』の言葉を肯定する『違わない』。
認めざるを得なくなってしまった。もう、後戻りは出来ない。
認めてしまったから。
心の声を肯定してしまったから。
詠の目から再び涙が溢れ出す。そして自分はこんな大声を出せるのかと驚くくらいに、声を上げて泣いた。
詠はずっと前から慈英が好きだった。
長いこと想い続けていた。
臆病でも、不器用でも、拒絶されても――いつかは自分の気持ちを伝えたい。そう思っていた。
それが、あっさりと。
今――崩れ落ちた。
まるで雪崩のように。
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