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「まずいですね。本当にまずいですね。彼の悪しき記憶を、私は完全に消去しきっていませんでした……」
――『彼』。
それが誰の事なのか、ついさっき天然っぷりを発揮したばかりの彼には、分からなかった。
でも確かに分かる事が一つだけ、ある。
それは――
「紫唯羅様……早くその『彼』の来世を見つけなければ、大変な事になりますよ。下手すれば――」
「それは分かっています!! 早く、彼を探し出さなくては!」
紫唯羅は切羽詰まった様子で、彼に向かって怒鳴るように言った。
そう――その所謂(いわゆる)『緊急事態』が、早急に対処しなければならない内容だという事だ。
紫唯羅はローブと頭に被った長いベールの裾を引きずりながら、建物内へ駆け込んで行く。
その姿を、彼は呆然とした佇まいで見守るのだった。
物語の扉は唐突に、突然に、勢いよく、さながら突風の如く――開かれる。
『運命』という、『迷宮』。
『迷宮』という、『運命』。
そして『輪廻』という名の物語が――。
十五年の月日(とき)を越えて。
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