悪夢

2/8
前へ
/250ページ
次へ
市松模様の床に、豪華なデザインのシャンデリア。螺旋階段と、壁伝いに並ぶランプがゴシック調な雰囲気を出す広間に、彼は立っていた。 だが身体は、彼の『ソレ』ではない。 意識だけが、その身体に入っているような感じだ。 彼は『彼』であって、『彼』ではないのである。 そんな『彼』は、笑っていた。 馬鹿にするような、下卑(げび)た笑い方で。 その笑いは、『彼』の目の前にいる――『あるモノ』へ向けられていた。 『あるモノ』。 それは床に横たわる人々――どうやら負傷しているらしく、微動だにしない――に対してではなく、床に飛沫する血液でもなく。 大鎌を持つ、少年。広間にいる中で地に足をつけ、『彼』と同じように立っている唯一の人物でもあった。 少年の眼差しは虚ろに歪み、光を失っている。――もう、闇しか映せないと言わんばかりに。 『彼』の笑いにも応じず、ただ『彼』を見据えている。 また、この夢だ。 彼は、『彼』の笑い声を聞きながらそう思った。 毎日毎夜毎晩――ずっとこの夢を見続けている。
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!

360人が本棚に入れています
本棚に追加