One

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
いつの日か。 闇に覆われた世界を浄化する、異世界の天使が舞い降りた。 彼女は運命に溺れ、期待に侵され、力に支配され。 泣いて、いた。 自らの使命に。 混沌の世界に。 彼方の故郷に。 俺は、闇に支配された人間だ。 触れてはならない。汚れてしまう。 情けなど持たない。感情を失ったから。 知ってはならない。近づくことは許されない。 だけど。 月夜だった。 朧げに照らされた、二人の影。 そっと、彼女の顔が肩にかかる。 強がらなくていい。 従わなくていい。 慣れなくていい。 重みに堪えられないなら。 俺の前で、泣いたらいい。 そうして笑った君が、一番自然で。だから。 汚れるとわかっていて、俺は彼女を抱きしめた。 失ったはずの感情が、紅に染まる。 やがて、それは白熱の炎となり勢い良く爆ぜて。 ――俺は、禁を破った。 光と闇が交わるという、禁を。 罰はすぐに与えられた。 彼女は異世界に強制帰還された。 何故? あんなに、使命を受け入れていたというのに? 彼女が追放されたのは、俺の存在のせい? 光を失い、闇はより一層濃く。 失った穴は残酷な野性に埋められ。 ああ。俺は今、どうなっている。 誰か、教えてくれ。 ああ。身体が他の血に染まる。 誰か、出してくれ。 ああ。殺める手が止まらない。 誰か、誰か。 誰か、助けてくれ。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!