小さい手

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そろそろ起きる時間だ。とはいえ時間など意味の無い暮らしなのだが。  何だかいつもと違う。何が、といわれてもこれといって理由は無いんだが、間違いなく何かが違っている。 まず、ガサガサ音がする。しかしこれは多分、屋根裏の鼠だろう。あとは視線を感じる。これもノイローゼの性だ、シャンプーの時に背中に感じる誰もが抱く勘違い。  起きれば何がおかしいか直ぐにわかるさ、それだけでも起きる価値がある、おかしいのは俺の頭だねと気付くらいの価値が。 起きて辺りを見回すと、家はいつものままだ、ただ見たことのない幼女が部屋の隅に居ることを除いては。その子は、ちょこんと膝を抱えて座って俺を凝視している。幻覚か、座敷童か。とうとう俺もここまで来たか。そう思うと全然怖くない。 「おい!君。誰だ?」 「清子。」 あら、喋るタイプじゃないか「何してる?」 「ここに居ろって言われて待ってるの。」 「ふーん、で誰を?」 「お父さん。」 「んで、お父さんどこ行ったの?」 「知らないの。」 「そう。で、お父さんの名前は?」 「氏川長介。」 うお!妖精の類にしてはリアルな名前だなぁ。ん?氏川長介?俺、知ってるよそいつ。 えっ!この子、氏川の娘かよ! 「で、いつ戻るって?」 「すぐだって。」 氏川のすぐってどれくらいだよ? 「清ちゃんがここに来たときまだ暗かった?」 「うん、暗かったよ。」 俺はとっさに時計を見た。昼を回っている。俺はどうしたらいいもんかと困り果てた。 「清ちゃんテレビでもみる?」 「うん。」屈託の無い顔で清ちゃんは頷いた。 リクライニングシートに座らせテレビを付けてあげた。ろくな番組はやっていない。子供に見せる番組ってなんだ、俺はリモコンでピコピコとチャンネルを掻き回した。取りあえず、正義が悪を倒す、教育上よろしいと思われる、暴れん坊将軍に合わせてみた。  清ちゃんはあからさまに嫌な顔をした。俺はリモコンを清ちゃんに渡した。
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