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氏川って男は、昔同じバンドでやってた奴だ。ノーコンテストってバンドで最初はパンクロックだった。今じゃ落ち目だがビジュアル系の大御所で、メディアにも出ていて細々と現役でやってる。
俺と氏川はパンクロックからビジュアル系に移る時、同時に辞めた。俺はただ、売れない気がして見切りを付けて辞めたわけだが、予想に反して凄い勢いで売れ出し、メジャーレーベルと契約し、先見の明は、まんまと裏目に出たのだった。しかし、氏川は音楽性の相違でリーダーと殴り合いの喧嘩の末に辞めた。辞めるた時に「本物のロッカーは俺と神山だけだったな。次のバンドで成功したらお前も入ってくれよ。」と頼まれ、成功したらという約束が気に入り了承した。
しかし、氏川のバンドは時代に合わず、泣かず飛ばずだった。時代的にビジュアル系が流行っていた時であり、パンクなんて古くてダサいという風潮の時代だった。その後の氏川は知らない。
どちらにしてもビジュアル系を俺がやってるわけはないし、同時からズレてた氏川と一緒にやって成功しているわけはない。
成るようになって、俺たちはこの有様だ。
氏川の大きな違いは、俺はインディーズ時代に、一曲だけ詞を書いていた。その曲はノーコンテストの隠れた名曲と呼ばれ、ベストにまで入った。メジャー成りたての頃、印税がガポガポ入り、この家なんか買って、メンバーでも無いのにぬくぬくと恩恵を受けた。ファンの世代交代の影響で、最近は雀の涙程の印税しか生み出さないが、それにしがみついて生きるしかなかった。
対して氏川は一曲も書いていない。その後の奴の人生は想像に難しくはない。
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