その頃の。

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───アルジャーノン宅─── 「…あ!」 アルジャーノンが扉から出て数歩めを踏み出そうとしたとき、隣を歩いていたチャドが突然声をあげた。   「…なんだよ」   内心、先程の声にとび上がっていたので、ついぶっきらぼうな言いぐさになる。   「いや、ウィルドさんに階級聞き忘れちゃったなと思ってさ。」 「……。呆れた。なんだよそんなの。後で聞けばいいだろ?」 「まぁねぇ~」 「…お前、殴るぞ?」 「ん~?ダメ」   ひょうひょうとかわしていくチャドに怒りがこもるが、上手くやり過す事にした。   「ふわ…。じゃあ俺、2時間後には仕事だから。」 「うん。おやすみ、アルジャーノン君」 「ああ、おやすみ」   そう言ってお互いにお互いの額へキスをすると、廊下を二手に別れた。 二人が小さい頃から必ずやっている儀式めいた事に、一瞬の幸せを感じるチャド。 彼はそんな愛しい人の背が次の角を曲がるまで眺めてから部屋に入った。 只今午前7時。屋敷の使用人が動き出して三人が目を覚ますまでの残り時間は、少ない。
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