夕日のころ

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  「お父さん、準備はいい?」 つい小声になりつつ、自分自身にも心の準備をさせる。 「ああ。いいぞ」 父が頷いたのを確認すると、力を入れて重厚な扉を開いた。 屋上へ一歩出ると、父は感嘆の溜息をつく。 「いい眺めだなぁ……」 僕は景色を見ることなく、素早く辺りを見回して夕日の姿を探す。 いつもならとっくに来ている時間だが、僕達以外の姿はない。 「やっぱり、もう来てくれないのかな……」
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