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「あれ?」
なんだか不思議な違和感があった。叶さんが叶さんじゃないみたいだ。
そもそも、叶さんってもっと目付きが悪かった気がする。
「菱荻くん?」
まただ。叶さんは俺を呼び捨てにしていたハズだ。
叶さんの手が俺の頬を優しく撫でた。
その手が思いの外冷たくて、却って俺の頭を冷静にしてくれた。
「木陰先輩?」
俺の呼び掛けに叶さんは、いや、木陰さんは動きを止めた。
「バレた?」
「バレバレすぎて逆にウケます」
木陰さんは悪びれる様子もなく、へらへらと笑った。
本当は危うく騙される所だったけれど、よくよく考えてみると二人の明らかな違いに気付かなかった自分に腹が立った。
「木陰ぇー!何やってんだテメェ!」
大声に驚いて振り返ると、叶さんがバタバタと走ってきた。
その後ろから火爪(ひづめ)さんが追い掛けてきていた。
中々に速いが、サッカー部の火爪さんが文芸部の叶さんにまったく追い付ける気配が無いのはどういうわけだ。
「オイ木陰?ざけんじゃねぇぞコラ」
このガラの悪さ。間違いなく叶さんだ。
「テメェだろ?俺になりすましてその辺歩き回りやがって」
木陰さんの襟元を掴む叶さんの腕を見ると鳥肌がたっていた。 それで大体何があったのか想像出来た。
「かなのためでしょーが。いつまでも苦手にしていられないでしょ?」
「かなゆーな」
木陰さんは叶さんの事を『かな』と呼ぶのだが、叶さんはそう呼ばれるのを極度に嫌がった。
女の子みたいだから嫌なのだそうだが、確かにその呼び方は少し合っていないような気がした。
「だからって愛人(あいと)まで抱え込みやがって。お前もあいつの容赦の無さと友情の深さは知ってんだろーが」
「だって俺、別に新島とは友達じゃないよ?」
「友達じゃなくても!!」
友情の深さというといい事のように聞こえるが、この場合はまったくいい事ではない。
皇さんや愛人さんの友情は若干歪んでいるのだ。相手を過大評価しすぎたり、愛情表現がいきすぎていたり、異常なほど相手に尽しすぎたりする。
もっとも、皇さんや愛人さんがそこまでするのは叶さんを含めて極僅かだ。
「皇が来てなかったからマシだったようなものの、、愛人と疾風(はやて)が悪ノリしやがって危うく死ぬ所だったんだぞ」
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