一日前、午前

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「そ…だよ……土方(ひじかた)君が……止……てくれたからよかっ……なもの…の……」  地面に突っ伏したままの火爪さんが這いずりながらようやく到着した。  ていうか疲れすぎだ。運動部だし、体力はある方だと思うのだが、一体どれだけ走り回ってたのか。 「テメェを探すのに学内何周したと思ってんだ?あぁ?」  ちなみにこの学校は校舎裏にある山を含めて学内と言う。  運動部の鍛練なんかにも使われるのだが、野生生物も棲息している。兎やリス等の小動物だけであれば可愛らしいものだが、熊や猪も出る巨大な山だ。  普通の神経ならば、一般人の神経ならば、気軽に入ろうとは思わない山。フェンスで囲われているとはいえ、いつ動物が降りてくるかわからない。 「火爪先輩……それって山含んでます?」  俺はしゃがみ込むと、火爪さんの顔を覗きこんだ。 「へへ………」  火爪さんは小さく笑っただけで何も答えなかった。だがしかし、反応を見ればどれほどの重労働であったかわかるというものだ。 「でも、なんで火爪先輩まで疲れてるんですか?」  女性嫌いの叶さんはともかく、火爪さんまで付き合ってぼろぼろになってる理屈は無いはずだ。 「俺は別に付いてこなくていいって言ったんだがな」  心なしか、叶さんが笑っているように見える。本当に心なしか、だが。なんだか嬉しそうだった。 「おい菱荻、部活は?」 「終わりましたよ、今日どうしたんですか?」  先程木陰さんとしたばかりの問答を叶さんと繰り返す。 「兄貴が猫拾ってきたんだよ。お前、いらねぇか?」 「いや、寮ですし」 「だよなぁ」  もちろん先程の木陰さんとは違う答えが帰ってきた。 「それで飼い主探してたんですか?」 「だって可哀想だろうが、まだ子供なのに」  あぁ、そうだった。彼ら三人の、徹底的な差異。木陰さんは自分の為に、火爪さんは叶さんの為に、そして叶さんは周囲の誰か、人間や動物を問わず、周囲の誰かの為に動く。  それが理由なのかは知らないが、叶さんは文芸部の他に、探偵部と和道部にも属している。  探偵部はその名の通り、校内外で起こった事件を解決したり、困っている人を助けたりする、というのが活動内容だ。  部員数僅か五人。実績もあるらしいのだが設立三年目にして顧問が変わる事五回目らしい。
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